CALET
CALorimetric Electron Telescope (CALET) on JEM-EF
ミッションの解説
概要
CALET(Calorimetric Electron Telescope)は、宇宙線やガンマ線の観測を目的としたミッションです。主に高エネルギー電子やガンマ線の観測を通じて、宇宙線の起源や加速機構、暗黒物質の探索などを行います。CALETは2015年8月19日に国際宇宙ステーション(ISS)の日本実験棟「きぼう」に設置されました。このミッションは、主に日本の宇宙航空研究開発機構(JAXA)が主体となって進められています。
CALETは、宇宙線やガンマ線の観測を行うために、CAL(Calorimeter)とCGBM(Gamma-ray Burst Monitor)の2つの主要な観測装置で構成されています。CALETは天頂から約45度の視野を持ち、10 GeV以上の電子に対する有効幾何因子は約1040 cm² srとほぼ一定です。
観測装置について
CALETの主要な観測装置と、その構成要素は以下のようになります。
CAL(Calorimeter)
CALETの主要な観測装置であるCALは、宇宙線のエネルギーを高精度に測定するために設計されています。CALは以下の3つの主要コンポーネントから構成されています。
CHD(CHarge Detector)
CHDは、粒子の電荷を測定するための検出器です。これにより、個々の粒子の原子番号を識別することができます。CHDはシリコンストリップセンサーを使用しており、粒子が通過する際に発生する電荷を検出します。
IMC(IMaging Calorimeter)
IMCは、初期シャワーを高精細に可視化するためのイメージングカロリメータです。IMCはシンチレータファイバーとタングステンプレートを交互に配置した構造を持ち、粒子がタングステンプレートに衝突して生成されるシャワーをシンチレータファイバーで検出します。これにより、粒子の飛跡を高精度に再構成することができます。
TASC(Total AbSorption Calorimeter)
TASCは、粒子のエネルギーを高精度に測定するための全吸収カロリメータです。TASCは鉛タングステン酸塩(PbWO4)シンチレータ結晶を使用しており、粒子が結晶に衝突して生成される光を検出します。これにより、粒子のエネルギーを正確に測定することができます。
CGBM (CALET Gamma-ray Burst Monitor)
CGBMは、ガンマ線バースト(GRB)や重力波源天体の観測を目的とした装置で、約7 keVから20 MeVの広いエネルギー帯域をカバーします。CGBMは、硬X線モニター(HXM)と軟ガンマ線モニター(SGM)の2種類の検出器で構成されています。
HXM (Hard X-ray Monitor)
HXMは、LaBr3(Ce)結晶を用いたシンチレータを採用しており、7 keVから1 MeVのエネルギー帯域を観測します。LaBr3(Ce)は、光出力、エネルギー分解能、時間応答に優れており、NaI(Tl)に比べて高性能です。HXMは、2つのシリンダー状のLaBr3(Ce)結晶で構成されており、前方シリンダーは直径66.0 mm、厚さ6.35 mm、後方シリンダーは直径78.7 mm、厚さ6.35 mmです。これにより、HXMは10 keV以下の軟X線にも感度を持ちます。
SGM (Soft Gamma-ray Monitor)
SGMは、BGO結晶を用いたシンチレータを採用しており、100 keVから20 MeVのエネルギー帯域を観測します。BGO結晶は、高密度(ρ=7.13 g/cm³)と高い有効原子番号(Zeff=74)を持ち、ガンマ線の停止能力が高いです。SGMのBGO結晶は、直径102 mm、厚さ76 mmのシリンダー状です。
CGBMの各センサーは、シンチレーション結晶、光電子増倍管(PMT)、高電圧分圧器、電荷感応増幅器(CSA)を主に含んでおり、これらの組み合わせにより高感度なガンマ線バーストの検出が可能です。
得られた成果
CALETは、宇宙空間における高精度な直接観測を通じて、宇宙線全電子のエネルギースペクトルを11 GeVから4.8 TeVの領域で達成しました。この観測により、最高エネルギー領域においてスペクトル構造が予見されており、今後の解析の深化と統計量の増加により、原子核成分の高エネルギー領域での観測の進展が期待されています。
また、CALETは1 GeV以上のガンマ線バースト成分の検出を行い、7 keVからTeV領域までの超広帯域の観測を目指しています。この観測性能により、重力波対応天体の探索においてもユニークな役割を果たしており、すでに重力波事象GW151226についてX線およびガンマ線放射の上限値を報告しています。
さらに、CALETは太陽活動に伴う電子成分の太陽変調の観測を通じて、太陽・地球磁気圏の研究を進めています。特に、バンアレン帯から大量に放出されるMeV領域の電子とその高エネルギー振動を検出しており、このRelativistic Electron Precipitation(REP)現象の観測により、宇宙天気予報の高精度化に必要な電磁イオンサイクロトロン波(EMIC)の解明が期待されています。