のぞみ
Nozomi (PLANET-B)
ミッションの解説
概要
「のぞみ(PLANET-B)」は、日本初の火星探査機として宇宙科学研究所によって開発されました。その主なミッションは火星の上層大気と太陽風の相互作用の研究、火星の磁場の観測、火星表面および衛星のリモートセンシングです。
探査機は、重量 540 kg、縦 1.6 x 横 1.6 x 高さ 0.58 m の直方体で、太陽光パネルを広げた状態では約 6 m の大きさで、火星到着後、長さ 25 m のワイヤが 4 本伸ばされ、先端から先端までが 52 m になる長大なアンテナとなる予定でした。
1998年7月4日に鹿児島宇宙空間観測所(現:内之浦宇宙空間観測所)からM-V-3ロケットによって打ち上げられ、1999年10月に火星に到着する予定でしたが、火星への航行中にトラブルが発生し、軌道の大幅な変更が行われ、当初の計画より4年遅れの2003年12月に火星に接近しました。 しかし、頻発する問題により火星周回軌道への投入に必要なシステムが機能せず、2003年12月9日に火星周回軌道への投入を断念しました。「のぞみ」は現在、火星の軌道近くを永遠に飛行する人工惑星となっています。
DARTS では、「のぞみ」の生テレメトリデータをアーカイブしています。データ処理ソフトや解析ソフトはアーカイブ化されていないため、科学的なデータ解析はサポートできない可能性があります。
観測装置について
Mars Imaging Camera (MIC)
MIC は、火星の下層大気と地表を高解像度で撮影するためのカメラです。最大1024 x 1024 ピクセルの解像度でカラー画像を取得します。 雲の分布、極地域のもや、ダストストーム、極地域の氷の成長や衰退などの下層大気の気象活動をグローバルに観測することができます。 また火星にもっとも近付いた時は、100 m の分解能で地表を撮像でき、地表の物質を知ることができます。
Magnetic Field Measurement (MGF)
MGF は、火星の磁場を 3 軸で測定するための装置です。測定精度は 0.1 nT 未満であり、火星の磁場の微細な変動を捉えることができます。
Probe for Electron Temperature (PET)
PET は、火星の大気中の電子の温度を測定するための装置です。測定範囲は500 K から 10,000 K までで、火星のプラズマ環境の理解に貢献します。
Electron Spectrum Analyzer (ESA)
ESA は、火星の大気中の電子のエネルギースペクトルを測定します。測定範囲は 12 eV から15 keVで、3次元のデータを最大8秒間隔で取得することができます。
Ion Spectrum Analyzer (ISA)
ISA は、火星の大気中のイオンのエネルギースペクトルを測定します。測定範囲は 6 eV/q から 16 keV/q で、3次元のデータを最大8秒間隔で取得することができます。
Electron and Ion Spectrometer (EIS)
EIS は、ESA,ISA よりさらにエネルギーの高い粒子(電子、プロトン、ヘリウムイオン、酸素イオン)のエネルギースペクトルを測定する装置です。電子の測定範囲は 30 keV から 350 keV、陽子の測定範囲は 30 keV から 1000 keV です。
Extra Ultraviolet Scanner (XUV)
XUV は、火星の大気中のヘリウム原子 (58.4 nm)、ヘリウムイオン (30.4 nm) から散乱される極端紫外光を測定するための装置です。電離層の外から測定を行なうことで、火星電離層中のヘリウムイオン/原子のトータル量と高度分布が分かります。
Ultraviolet Imaging Spectrometer (UVS)
UVS は、紫外線(115 - 310 nm)と、重水素と水素の散乱光量の比 (D/H 比) を測定するための装置です。 これにより、水素や酸素の火星の周りのコロナを観測し、火星上層大気と太陽風の相互作用を調べたり、D/H 比の測定で、火星大気の進化の過程や脱出過程を調べることが可能です。
Plasma Wave and Sounder (PWS)
PWS は、LFA とともに、長さ 52 m のアンテナを用いて、プラズマ波動の観測を行う装置です。 高周波数帯 (20 kHz - 5 MHz) のプラズマ波動を観測し、太陽風との相互作用の結果発生している火星周辺のプラズマ波動現象を調べ、その相互作用のメカニズムを研究します。 また火星電離層の上方にある「のぞみ」探査機の軌道から周波数 30 kHz - 6.8 MHz のパルス電波を送信し、 電離層で反射してかえってくる電波(エコー)をとらえます。 エコーの遅れ時間を調べることによって、火星電離層のプラズマ密度分布やダイナミクスを探ります。
Low Frequency Plasma Wave Analyzer (LFA)
LFA は、PWS とともに、長さ 52 m のアンテナを用いて、プラズマ波動の観測を行う装置です。 低周波数帯 (10 Hz - 32 kHz, VLF/ELF) のプラズマ波動を測定し、火星磁気圏、電離圏上層を調べます。 これにより、火星の磁場とプラズマの相互作用を理解することができます。
Ion Mass Imager (IMI)
IMI は、火星の大気中のイオンの質量をイメージングする装置です。 測定するイオンの質量範囲は 1 - 10<sup>12</sup> a.m.u.、エネルギー範囲は 10 eV/q から 35 keV/q で、3次元のデータを最大4秒間隔で取得することができます。 IMI と ESA、ISA、EIS のデータから、その地点におけるイオンの構成、エネルギー、速度分布などが分かります。
Mars Dust Counter (MDC)
MDC は、火星周辺のダストの質量と速度を測定する装置です。速度 1 km/s のダストは 10<sup>-10</sup> から 10<sup>-5</sup> g、100 km/s のダストは 10<sup>-18</sup> から 10<sup>-13</sup> g の範囲を観測可能です。 火星の月である Phobos の軌道にはリング状に、Deimos の軌道にはトーラス状にダストの粒子が分布している領域があると予測されており、MDC で実際にダストを測定し、その分布を明らかにします。 また、「のぞみ」が地球から火星に移動している間にも、小惑星や彗星によって供給されるダストや、太陽系の外からやってくるダストを観測します。
Neutral Mass Spectrometer (NMS)
NMS は、火星の大気中の中性ガスの質量を測定する装置です。測定範囲は 1 から 60 ダルトンで、質量分解能は 8 です。
Thermal Plasma Analyzer (TPA)
TPA は、火星の大気中の熱的プラズマのドリフト速度を測定する装置です。測定範囲は 0.1 eV から 100 eV で、火星のプラズマ環境の詳細な理解に貢献します。
得られた成果
「のぞみ」は火星周回軌道への投入には失敗しましたが、その過程で得られたデータは、火星探査の技術的課題や宇宙探査機の運用に関する貴重な教訓を提供しました。
参考文献
ミッション概要論文
装置論文
- Oyama, K. et al. (1999) Earth, Planets and Space - Electron temperature probe onboard Japan's Mars orbiter
- Ihara, A. et al. (2002) Astroparticle Physics - Electron and ion spectrometer onboard the Nozomi spacecraft and its initial results in interplanetary space
- Sasaki, S. et al. (2002) Advances in Space Research - Observation of interplanetary and interstellar dust particles by Mars Dust Counter (MDC) on board NOZOMI
- Sasaki, S. (1999) Advances in Space Research - Dust ring/torus around Mars, waiting for detection by NOZOMI
- Taguchi, M. et al. (2000) Earth, Planets and Space - Ultraviolet imaging spectrometer (UVS) experiment on board the NOZOMI spacecraft: Instrumentation and initial results
- Nakagawa, T. et al. (2002) Advances in Space Research - NOZOMI observation of the interplanetary magnetic field in 1998